+弁護士便り+

経済なお正月と秋の焼きトウモロコシ

2008年もよろしくお願いいたします。申し訳ないことに…ホームページは今年もマイペースになりそうです。

さて,新年の東京は,三が日以降もしばらく穏やかな天気が続きました。しかし,経済の方は,天候とは裏腹に,1月4日早々に原油高騰に象徴される資源高・円高(ドル安)・株安の波が同時に押し寄せ,年初から大波乱のスタートになったようです。
今回は,昨年来から関心のあった経済について,素人なりに書いてみました。

昨年11月に横浜の小学校で年明けに給食を2回分削減する方針だというニュースがありました(その後の関係者の努力によって削減は回避できたそうです)。また,昨年からのガソリンや今年1月出荷分からのカップヌードルの値上げなど,物価の上昇は既にじわりと身近なところで現実化しています。これらの物価上昇の原因は,資源高つまり原油高騰に伴う食材の値上りによるものでした。
また,円高は,海外の旅行先で買い物をするにはよいのですが,円高不況という言葉があるように輸出産業中心の日本経済にとっては貿易収支で全体としては為替差損が大きくなり,輸出産業に関わる中心的な企業は円高による圧迫を受けますから,日本株の下落や企業のコスト削減によって労働収入や消費者の購買意欲を低下させるなどの景気低迷の要因に繋がります。1月15日の夕刊によれば,為替は前日の海外市場で円買いドル売りが進んだため,15日の東京為替市場の円相場は一時107円台の円高になり,円高が進んだことで輸出関連銘柄の株式が売られ,15日の東京株式市場では日経平均株価が一時,2005年11月以来2年2か月ぶりに1万4000円を割りました。東証一部全体で8割以上の株式が値を下げたようです。昨年しばしば話題になったのは円キャリートレード(日本が国際的に見て低金利であることを利用し円で資金を借入れた後,その円を売って利回りの良い外国通貨建ての株式等を購入する方法)でした。円での借金が継続したまま円高傾向で推移すれば,将来の為替差損が生ずる危険を回避するために,投資家が円キャリートレードの巻き戻し(取引解消のための円の買戻し)をすることが予想され,円高が一層加速する懸念があります。
資源高・円高(ドル安)・株安がこのまま連鎖的に進む可能性があり,日本経済そして私たちの生活に目に見えて不利益が及ぶことが危惧されます。

しかし,そもそもなぜそのような原油高騰や円高(ドル安)を招いてしまったのでしょうか。決して日本国内で原油の需要が急増したから原油価格が上昇したというわけではありません。2004年以降の中国やインドなどの新興国における需要増が原因であるという見方もありますが,国際的な原油取引の指標となるWTI先物価格はそれでも1バレル50ドルを突破した程度でした。2006年以降の原油の高騰は,ファンドマネーなどの世界を駆け巡る巨額の投機資金がサブプライムローン問題などに揺れる米国の景気の先行き不透明感からドル離れを起こし,米国の株式市場から資金を引き上げて,金融商品化した原油市場にシフトしたことが原因だという見方があります。2008年初頭にはいよいよ1バレル100ドルのレベルに突入し,しかも現に米国の株価は下落しています。1/12の夕刊にはNY株が終値246ドル安で,200ドル超下落は今年に入って既に4度目だと報じられました。要するに,資源の高騰は,米国の景気の先行き不透明感からドル離れが進み,その資金が米国の株式市場から原油市場に流れて海外の原油市場の動向に影響を与えた結果であるといわれています。
また,円高ドル安といっても日本や米国は変動相場制を基本にしていますから,決して政府が外国為替市場に強力に干渉したために円高になったというわけではありません。これも海外の金融や証券の市場の動向に影響されたものです。ここでも米国の景気の先行き不透明感からドル離れによってドル安を招いたことから相対的に円高になっている傾向が見られるようです。ちなみに,昨年11月,カナダドルが対米ドルで1800年代後半以来の歴史的高値を更新したという報道がありました。カナダの雇用情勢が良好であることと原油の高騰が原因だといわれています。ご存知のとおり,カナダは世界有数の産油国です。景気低迷が懸念される米国と比較して,明暗が分かれた格好になりました。カップヌードルを以前よりお金を出して買わなければならなくなったのは,米国経済の失速と投機マネーの行方が連動的な影響を私たちの家計に及ぼした結果だということになります。

このように見てくると,経済のグローバル化は既に昨年来から確実に新局面を迎えているように思えてなりません。たとえ海の向こうのことであっても,取引関係の深い米国の景気動向はもちろんユーロ圏,中東,新興国(ブラジル,ロシア,インド,中国のBRICsほか)や途上国を含めた世界的規模における経済や景気の動向と不安定要因(中東における地政学的リスクやベネズエラ・ボリビアといった中南米に広がる反米ネットワークと資源ナショナリズムの高揚などもそうです。現在は,米国自体がサブプライムローン問題に伴う景気の懸念を抱えてしまい,基軸通貨としてのドルへの信頼が揺らぎ,グローバル経済の中に占める地位や自力を相対的に低下させていること自体が不安定要因になっています。)が,現状では主に米国経済からの影響を通じてですが,日本の実体経済そして私たちの家計に具体的な影響を確実に及ぼしてきていることが目に見えて実感できるような時代になっているということです。

このような新局面を迎え,日本は原油や穀物といった資源の自給率が世界的にみて著しく乏しい実情を踏まえて一体どのように対処していったらよいか,問題状況の分析とこれに対応する的確なビジョンはあるのでしょうか。世界銀行が1月8日に発表した2008年の世界経済展望では,日本の成長率見通しが1.8%の下方修正になりました。日本経済の先行きに不透明感が増している状況が改めて浮き彫りになった格好であり,政府としても難しいかじ取りが続くと思いますが,新局面を迎えているグローバル経済への適合性や競争力確保の必要性という観点から洗い直した先見性のある論議が(投資家向けではなく)生活者である有権者に対してもっと開かれた形でなされてしかるべきではないかと思います。
私は株もやりませんし,株価がどうだとか中国やインドでは…などといわれても生活や仕事に直接関係もないし,なんといっても経済というのはとっつきにくく感じられ,以前はあまり興味もわきませんでした。実際に自分が何をできるのかもわかりません。しかし,日本がグローバル経済の新局面を「状況」として受動的にしか受け取れていないとすれば,アジアや世界の経済の中で日本はいつまでも後手に回り続け,いつしか国際経済の狭間に漂うような,ローカルな地位や市場に甘んじなければならなくなる可能性がないわけではありません。
リカードという経済学者は「比較優位」の理論を展開し,現在の国際貿易や取引の基本的な基盤をなしています。確かに市場の自由で自律的な取引にゆだねるという自由経済の基本的な前提は今後も確保される必要があります。しかし,現在のグローバル経済には,日本を含めたかつての工業先進国中心の資本主義経済における市場に参加していたプレイヤーとは基軸の異なる強力なプレイヤーが続々と参加しています。いまやプレイヤー同士も決して同質的ではありませんし,イランやベネズエラの例を挙げるまでもなく敵対的要素があることを隠そうともしません。「比較優位」の理論が想定するようなそれぞれの国が得意・不得意のうち得意分野の産業に集中し続けることで互いの繁栄や成功を収められるといえるには,その前提として相互の協調・信頼関係の構築が必須ですが,残念ながらそれにはまだ時間がかかりそうです。「比較優位」理論は,グローバル経済の新局面に至って,かえって幻想的要素があることを否定できない印象を帯びてしまったように思います。
経済理論は理論としてそのような理論的基礎の上に立ちつつも,私たちの生活者の側に立って世界経済の新局面を見渡し,問題状況の分析とこれに対応する的確なビジョンが,理念や精神性をもって展開されたら…そういう経済の専門家が多くいてくれたら,テレビにもたくさん出演してほしいしと思うのは私だけでしょうか。

もともと資本主義経済のシステムは,利益のために人間の理性と無関係に飽くなき欲求を増長し続ける性質があります。その気になれば原油や資源も平気で投機の対象としたり戦略商品化したりする術もあります。経済の常識から外れるかどうかはわかりませんが,率直にいえば,そもそも原油のような資源を投機や戦略商品化しないでほしいと思います。

また,米国の景気低迷にしても,その経過に問題があったように思います。そもそもサブプライムローンは信用力が低い生活者個人向け(借り手である個人の所得や過去の返済履歴に照らして信用力スコアが高いのがプライム層であるのに対し,信用力スコアで下位に位置する“サブ”プライム層向けという意味)の住宅ローンですが,最初の3年間程度までは返済金利の負担を少なく設定している(優遇期間の固定金利)ためローンは組みやすいものの,以後の返済金利がぐっと上昇する(市場の変動金利+3〜6%程度が一般的なようです)ので返済が追い付かなくなるリスクを内包した仕組みでした。決して米国で古くから一般的に普及していた形態のローンではありませんが,2003年ころからその利用率が右肩上がりに上昇しました。しかし,まずそのようなローンの仕組み自体に無理があると思うのが正常なものの見方のように思います。それでも不動産価格が上昇していけば不動産を担保に有利なローンを組み替えて返済が可能だと思われていたようですし,折しも米国では2001年初めまでにITバブルがはじけ,9月には同時多発テロが発生するなどの情勢から金融緩和政策が続き,2002年以降の住宅バブルによる住宅価格の上昇を招いていました。しかし,昨年の2007年以降になると住宅バブルが崩壊し,金利が上昇したサブプライムローンの延滞が次々に顕在化していくわけです。ITバブルの次は住宅バブルといったようにバブルが崩壊したら金融緩和によって次のバブルを作って景気を引き上げ,次のバブルが崩壊したらまた次のバブルを作るというのが意図的なのかどうかはわかりませんが,サブプライムローンが住宅バブルの牽引力になったことで土地(不動産)という一種の資源が投機対象になったこと,しかもサブプライム層という消費者を犠牲ないし踏み台にしてバブルを創設してしまったこと,しかもサブライムローンを証券化の技術によって新たな投機の対象にしたこと,これらのことは少なくともセットで考えれば行き過ぎなのであって原油のような資源を投機や戦略商品化することと同じように問題があったのではないでしょうか。昨年2月に中国(上海)の株価指数が一時急落するという現象がありましたが,前月の1月には米耐久財受注が市場予想を下回り,中国株下落の直前にはFRB前議長のアラン・グリーンスパンが年内に米国の景気が後退する可能性を既に示唆していました。その背景にはサブプライムローン問題があったといわれています。2月の中国株急落と時間を置くことなく米国株が下落し,世界同時株安になりました。いったんは早期持ち直し傾向も見られ,金利や株価も持ち直し傾向を示しましたが(この時点での金利上昇が住宅市場を更に冷え込ませ,ヘッジファンドの破綻を招いたという評論もあります),6月以降,サブプライム問題が再燃し,この問題がたいへん根深いものであることが次第に確認されていく格好になりました。つまり,6月には米大手証券会社傘下のヘッジファンド(ハイリスク・ハイリターンの投機的運用をします)2社がサブプライムローン関連の債務担保証券=CDOへの投資による損失を抱えて破綻状態になり,7月になると大手格付機関がサブプライム関連証券=MBSの大量格下げに転じたことを受けて,昨年後半から金融機関の損失拡大懸念と株式市場の信用収縮懸念が拡がり,株価下落要因に連動していく様相を呈するようになりました。しかも,サブプライムローン問題の影響は,8月以降,欧州ユーロ圏や英国の金融市場にも大きく波及していることが明らかになりました。年を越えた現在もいまだ事態の沈静化には至っておらず,今年1月11日の朝刊に米国の金融最大手シティグループ・証券大手メリルリンチが昨年10月から12月までの第4四半期も7月から9月までの第3四半期に加えて最大で両社合計250億ドルの追加損失を計上しそうだと報道されていました。今週には正式な決算発表が予定されています。いずれ判明すると思いますが,日本を含めた世界的規模でサブプライムローン関連により発生する損失額や経済的影響は最終的に一体「どんだけ」で「いかほど」なのでしょうか。そして,そのツケは結局どこに回るのでしょうか。

経済学では経済主体の基本を「家計」「企業」「政府」の3主体でとらえます。困難な経済情勢にある時こそ「家計」が踏み台にされたりツケを払わされることがないよう私たちは意識的に注意しなければなりませんね。
おいしいマグロはなかなか口にできなくなりました。今年の秋においしい焼きトウモロコシはせめて安心して食べられるのでしょうか。

2008/01/16(Wed) 10:07:28 

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