正月以来のご無沙汰です。苦笑いです。忙しく元気に頑張っている証拠なのでご容赦ください。
「経済なお正月」は「経済な1年」になってしまいました。サブプライム問題以降,9月15日には証券大手リーマンブラザーズが破綻し,いまや連日「金融危機」が報道され,「世界恐慌」などという私の世代では歴史の世界のお話・・・ですらしばしば取り上げられる事態です。
あくまで比較の問題ですが,現在は,大幅な株安・円高ですね。日経平均は既に1万円を割り込み7000円代であり,円は1ドル90円前半代に及びました。年初の原油は値が下がってきましたが生産量を調整されそうですね。経済全体が年末から新年に向けてどうなるのだろうと,まだ経済に関心を持ち続けている昨今です。
「外国人投資家」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。その概念は,捉え方にもよると思いますが,伝統的な機関投資家のみならず,ヘッジファンドや特に2000年代特に03年以降に新興投資家として注目されるようになった投資ファンドなども含めて考えることができます。03年に日米欧が揃って金融緩和策をとり世界的なお金のだぶつきが投機マネーを生むことにつながったとも言われています。
日米の株式市況を振り返ると,04年に米国で4年ぶりに政策金利の引上げがあり,一時的なもみあいはあったものの,その後も近年07年まで日米の株価(NYダウ・日経平均)は比較的堅調に上昇傾向が見られました。
しかし,多少の皮肉を込めていえば,この上昇傾向も結局は,外国人投資家の動向,特に投機マネーのおかげ?・・・ということだったようです。これも一種のバブル?投機マネーバブル?というのはいいすぎかもしれませんが,最近の日米の株価の乱高下を見ると,NYダウ・日経平均に連動傾向が年や月などという単位ではなく,日に近い単位で連動していることが読み取れます。私自身,米国経済の失速が,輸出を中心とする日本企業にとっても先行きを不透明にし,日米連動して株価が下落するのかなという認識もありました。しかし,個々の動きがあまりにスピーディに連動し,しかも昨今急激に円高(ドル安)に振れていることを見ていると,要するに投機マネーが今までの資金を米国から引き払って(引き上げて)ドル離れをし,しかも円買いに流入しながらも今のところ日本株に資金を投入していない(前回新年のホームページで懸念した円キャリートレードの巻き戻しによる円高加速の懸念が顕在化しているように見えます)だけ,のようにも見えてきます。そうすると,日経平均のここ数年の好況感ですら,実は企業の実績や好況というよりは,外国人投資家の動向による(だけの)ものだったのかとすら思えてきます。現に,外国人投資家による日本株の買い越し・売り越し(買った実績=買い込んだ実績と売った実績=手放した実績のどちらが多いか)によって株価が明らかに左右されている実情もあるようです(買い越しが多ければ株価が上がり,売り越しが多ければ株価が下がる)。投機マネーといわれるお金のうち,高いレバレッジのかかった資金の割合がどのくらいあったのかというデータは持ち合わせていませんが,その割合が大きければ大きいほど,見せかけの好況でしかなかったということになります。
前回新年のホームページで,「米国の景気の先行き不透明感からドル離れによってドル安を招いたことから相対的に円高になっている傾向が見られる」とか「カップヌードルを以前よりお金を出して買わなければならなくなったのは,米国経済の失速と投機マネーの行方が連動的な影響を私たちの家計に及ぼした結果」とか「現状では主に米国経済からの影響を通じてですが,日本の実体経済そして私たちの家計に具体的な影響を確実に及ぼしてきていることが目に見えて実感できるような時代になっている」などと素人なりに書かせていただきました。決して的外れな話ではなかったようですが,どうやら投機マネーの影響がより鮮明に見えてきている気がします。原油高の緩和にしても,経済の失速による原油需要の低下という以上に,要するに投機マネーが原油市場から引き上げられただけと見ることもできるのではないでしょうか。
今年9月のリーマンブラザーズ破綻後,10月に入り,欧米各国が銀行への公的資金注入に動きました,というより,動かされました。市場の反乱や市場の圧力に突き動かされた格好ですが,市場というよりは要するに重要な(絶大な影響力を持つに至った)プレイヤーにのし上った外国人投資家による駆け引きに突き動かされたようにも見えます。
ところで,経済学には「外部性」という考え方があり,外部性とは,ある経済主体の行動が他の経済主体に影響(外部効果)を及ぼすことを意味します。講学上,外部性には,市場を通じて影響を及ぼすものと市場を通じないで影響を及ぼすものがあると分類されるわけですが,他人に悪影響を及ぼすことを気にかけないような傍若無人ぶりが度を越せば,これを規制し罰則を課すというのが定石のようです。投機マネーの動向が市場を通じてのものと見るかどうかあまりカテゴリックな議論はしても実利がないのであって,既に実質的に経済主体化している外国人投資家が及ぼす影響(外部効果)が,世界規模で,かつ,実体経済に及んでいる実情を無視できない以上,今後,その外部効果をコントロールするために規制や罰則が議論される時期が来ることになります。
「持続可能性」という言葉が登場して久しいわけですが,現在のような危機に直面するにつけ,グローバル化された新しい経済の枠組みの中で,実質的に経済主体化した外国人投資家との共存がいかなる形で目指されるべきなのでしょうか。少なくともここ数年のだぶついた投機マネーの価値観は仁義なき利益追求にあり,共存の形をイメージすることは決して容易ではないかもしれません。しかし,今回の危機を契機として,私たちの生活が文字どおり持続可能な社会を実感できるような方向で,世界的な規模で見識ある議論が,単なる対処療法だけにとどまることなく根本的な課題に言及される形で展開されることを願っています。